革新と信頼を礎に
~慶應義塾大学病院の使命と未来への歩み~
病院長 福永 興壱
慶應義塾大学病院は1920年の開院以来、100年以上にわたり「診療・研究・教育」の三本柱を使命として歩みを進めてまいりました。患者さんに寄り添った医療を提供するとともに、新しい知を生み出し、次代を担う医療人を育成することを重視し、社会に貢献し続けています。
当院は、高度急性期医療を担う拠点病院として、多くの診療分野で専門性の高い医療を実践しています。重いご病気や複雑な症状に対して迅速かつ適切に対応し、科学的根拠に基づく治療を提供することは大学病院の大きな責務です。各診療科が担う役割を基盤としつつ、複数の診療科や専門職種が連携し、患者さん一人ひとりに合った医療を組み立てています。さらに、再生医療やゲノム医療、AIを活用した診断支援など、未来を見据えた取り組みにも積極的に挑戦し、個別化医療の実現を目指しています。
急性期医療を確実に機能させるためには、広いネットワークが不可欠です。当院だけで医療を完結させるのではなく、関連病院や地域の医療機関と連携し、治療の前後を見据えて協力し合うことで、より多くの患者さんを受け入れる体制を整えています。こうした体制により、全国から患者さんが安心して来院できる拠点病院としての役割を果たしています。さらに、東京都災害拠点病院としては、首都直下地震などの大規模災害や緊急事態に際して地域の医療救護の中心となるべく、常に備えを整えています。
また、安全と安心を基盤とする「医療安全文化」を根づかせることを大切にしています。診療科や職種をこえて全職員が協力し、取り組みを共有することで、事故を未然に防ぎ、質の高い医療を提供できるよう努めています。安心できる環境のもとでこそ、医学の進歩と患者さん本位の医療が実現すると考えています。
大学病院は診療の場であると同時に、研究と教育の場でもあります。日々の診療から得られた課題を研究に結びつけ、その成果を臨床に還元する循環は、新しい治療や診断法を生み出す原動力となります。その過程で、多くの医師や医療スタッフが成長し、未来を支える人材へと羽ばたいていきます。私たちは「人を育てる」ことを重視し、豊かな人間性と知性を備えた医療人を社会に送り出す責務を担っています。
さらに近年、当院はAIホスピタル構想やデジタルトランスフォーメーションを積極的に推進し、次世代の医療モデルの構築を目指しています。電子カルテや医療データの高度活用により診療の効率化と質の向上を図るとともに、手術支援ロボットや生体情報をモニタリングするセンサー技術などを活用し診療支援を進めています。これにより、患者さんにより良い医療を届けると同時に、医療従事者の負担軽減にもつなげています。こうしたDXの推進は、単なる技術革新にとどまらず、患者さん中心の医療を実現する大きな力になると考えています。
大学病院に求められる使命は国内にとどまりません。国際的な視野を持ち、海外の大学病院や研究機関との連携を強化することも重要です。当院はグローバルな共同研究や人材交流を推進し、世界水準の知見や技術を取り入れることで、患者さんに還元できる医療をさらに発展させるとともに、日本の医学・医療の進歩にも寄与してまいります。こうした国際的なネットワークは、未来を担う医療人にとっても大きな学びとなり、教育の質を高めることにもつながると考えています。
これまでの伝統を礎に、私たちは「革新」と「信頼」を大切にしながら、高度急性期医療を確実に担ってまいります。国内外のネットワークを広げ、安心と希望を届けられる病院として、そして未来を切り拓く大学病院として、皆さまの健康と笑顔のため私たちは挑戦を続けてまいります。