概要

慶應義塾大学病院呼吸器外科では、肺、縦隔およびその他の胸部臓器の疾患を扱い、年間600件以上の全身麻酔手術を行っています。代表的疾患である肺癌の他、縦隔腫瘍や転移性肺腫瘍、悪性胸膜中皮腫などの悪性腫瘍、気胸、膿胸、漏斗胸などの良性疾患を取り扱っています。
当科の第一の強みは、豊富な手術経験を持つスタッフによる低侵襲手術と、「毎朝の全員カンファレンス」に代表されるきめ細かい周術期管理によって、質の高い外科治療を提供していることです。第二の強みは、総合病院として他診療科との連携体制が充実していることです。主要な疾患である肺癌に対しては、呼吸器内科・放射線治療科・病理診断部・ゲノムユニットを含めた肺癌診療チームとして集学的治療・がんゲノム医療を提供しています。また、内科との協力によって糖尿病や狭心症などの各種併存疾患への対応もスムーズです。第三の強みは、特定機能病院・臨床研究中核病院として高度医療・先進医療に取り組んでいることで、2023年からは胸部悪性腫瘍に対する凍結融解壊死療法の患者申出療養(全国で当院のみ)を開始いたしました。また、整形外科と合同の椎体合併切除術や、心臓血管外科と合同の人工心肺を必要とする巨大縦隔腫瘍切除など、他院で切除困難とされた高難度手術も積極的に行っています。
詳細はhttp://keiothorac.umin.jp/index.html をご覧ください。

特色・方針・目標

【肺癌】
最も手術件数が多い肺癌については、毎週呼吸器内科・放射線治療科・病理診断部と合同でカンファレンスを行い、専門家の知識・経験を集約して適切な治療法を提案します。当科では肺癌に対して、7-8cmの小さな傷に胸腔鏡を併用した胸腔鏡補助下手術と、DaVinciサージカルシステムによるロボット支援下手術を行っています。これらは「安全性」、「根治性」、「体への負担」の3者のバランスがとれた優れた方法であり、標準的な肺葉切除の手術時間は約2時間、術後5-6日での退院が可能となっています。

【縦隔腫瘍】
胸腺腫・神経原性腫瘍等の縦隔腫瘍に対しては、DaVinciサージカルシステムによるロボット支援下手術を積極的に行っています。胸腺腫と合併することが多い重症筋無力症に対しては、当院神経内科と連携して安全な周術期管理を行える体制を作っています。


【転移性肺腫瘍外来】
2024年に転移性肺腫瘍に対する局所治療の提供を目的として、転移性肺腫瘍外来(水曜午後:担当医 加勢田馨)を開設しました。転移性肺腫瘍に対する局所治療として、胸腔鏡補助下手術、定位放射線照射、凍結融解療法の中から適切な治療選択肢をご提案します。 また、手術を受けられる患者さんに対しては、将来的に最も効果が期待できる薬物療法を選択するためのがん遺伝子パネル検査も提供しています。
※はじめから凍結融解壊死療法(患者申出療養)を希望されている方は、セカンドオピニオン外来で対応しています。


【気胸外来】
当科では、2016年10月より『気胸ホットライン』を開設しております。このホットラインは当科医師が24時間体制で医療機関・患者さん本人からの連絡に対して直接対応し、すぐに患者さんを受け入れ、必要があれば迅速に入院、治療、手術を行うための窓口となっています。気胸は一般的な病気ですが、時として治療に難渋するケースもあり、地域病院やクリニックでの対応が困難な場合も多いと考えます。このような現状を考え、我々は地域の救急診療(夜間救急)機関やクリニックと密な連携を取り、多くの患者さんのお役に立てることを目的とし、24時間体制の気胸ホットラインを開設したしました。また、2023年から気胸に対する単孔式手術(傷口が穴ひとつだけの手術)も導入しています。

【漏斗胸外来】
漏斗胸に関する悩みにお答えするため、当科では漏斗胸専門外来を開設いたしました。漏斗胸の診察は病院により、呼吸器外科、小児外科、形成外科などいろいろな科で行われています。しかし、治療を行っている病院は少なく、多くの方が受診の機会を逃しています。当科では漏斗胸でお悩みの患者さん、ご家族にわかりやすい説明を心がけています。また、当院では小児外科、心臓外科、麻酔科、形成外科、精神神経科と協力して、適切な治療を行います。漏斗胸に関してお悩みの方は、ぜひ当院漏斗胸外来の受診をおすすめします。
(火曜日:担当医 政井恭兵)

その他、肺良性腫瘍、縦隔腫瘍、肺結核性抗酸菌症、膿胸、胸部外傷、胸壁腫瘍などの肺および胸壁に対する胸部外科手術全般に対応いたします。

対象疾患は次のようになっております

次のような症状を扱っております

咳が気になる、痰が多くなった、血痰が出る、胸が痛い(痛胸)、息切れがする

主な実績

 慶應義塾大学病院では2018年5月より新病院棟での診療をスタートさせました。新病院棟では全身麻酔手術室の拡充や約3倍のスペースに拡張された救急部門など、患者さんの受け入れ体制を病院全体で強化しております。新手術室の稼働により手術枠が増加し、遅滞なく治療を行う環境も整って参りました。また、地域医療機関との「顔の見える医療連携」を推進し、患者さん目線の医療を展開してまいりました。その結果、呼吸器外科手術総数は年々増加傾向であり、2022年は全身麻酔手術588件と過去最高の手術件数となりました。我々は専門性の高い技術で安全・確実な手術を心がけ日々の手術を行っています。患者さんにはご満足いただける医療を提供できると思います。

名称 件数 備考
2023年度手術総数 589 2022年度手術総数:588, 2021年度手術総数:560, 2020年度手術総数:474
2023年度肺癌手術総数 165 2022年度肺癌手術総数:168, 2021年度肺癌手術総数:169, 2020年度肺癌手術総数:173
2023年度縦隔腫瘍手術総数 44 2021年度縦隔腫瘍手術総数:43, 2021年度縦隔腫瘍手術総数:36, 2020年度縦隔腫瘍手術総数:40
2023年度転移性肺腫瘍手術総数 56 2022年度転移性肺腫瘍手術総数:53, 2021年度転移性肺腫瘍手術総数:55, 2020年度転移性肺腫瘍手術総数:45
2023年度気胸手術総数 56 2022年度気胸手術総数:65, 2021年度気胸手術総数:66, 2020年度気胸手術総数:65
2023年度漏斗胸手術総数 171 2022年度漏斗胸手術総数:159, 2021年度漏斗胸手術総数:138, 2020年度漏斗胸手術総数:88

ご挨拶

 2023年4月に慶應義塾大学医学部外科学(呼吸器)教授・慶應義塾大学病院呼吸器外科診療科部長に着任した朝倉啓介と申します。当科は1950年(昭和25年)に開設された本邦でも有数の歴史を持つ呼吸器外科であり、初代小林紘一教授、第2代野守裕明教授、第3代淺村尚生教授時代を通じて、本邦の呼吸器外科・肺癌外科を牽引してまいりました。当科には経験豊かなスタッフによる質の高い安定した診療体制が構築されております。また、他診療科との連携体制が充実していることも当院の特徴です。例えば、呼吸器内科や放射線治療科、病理診断部、ゲノムユニットを含めた肺癌診療チーム内の連携が円滑で、糖尿病や狭心症などの併存疾患への対応も万全です。整形外科と合同の椎体浸潤肺癌に対する椎体合併切除術や、心臓血管外科と合同の人工心肺を必要とする巨大縦隔腫瘍切除など、高難度手術にも積極的に取り組んでおります。
 肺癌の患者さんには検査、入院を可能な限り迅速に行います。当科の特徴は安全かつ精度の高い胸腔鏡補助下手術、進行肺癌に対する放射線化学療法後の手術療法、気管支の中枢にできた肺癌に対する気管気管支形成術など全ての呼吸器外科手術が施行可能であることです。また、小さな肺病変に対するCTガイド下針生検(放射線治療科と連携)、や術前の気管支鏡診断も施行可能です。
 また、気胸ホットラインでは当科医師が24時間体制で医療機関・患者さん本人からの連絡に対して直接対応し、迅速な診療を行っています。加えて『漏斗胸専門外来』には全国各地から多数の患者さんが受診され、現在では本邦有数の成人漏斗胸診療施設になっています。2023年からは胸部悪性腫瘍に対する低侵襲治療である凍結融解壊死療法の患者申出療養も開始しました。これらの治療を希望される患者さんはいつでもご相談ください。当科が「患者さんに選ばれる呼吸器外科」であり続けるために、診療の質の向上と先進的治療の開発に、スタッフ一同取り組んでまいりたいと思います。

蓄積された専門家の知識と経験をもつ慶應義塾大学病院呼吸器外科。呼吸器のさまざまな疾患に対し、 診察から外科的治療、アフターフォローまで、根治を目指した診療を提供しています。

連絡先

より詳しい情報は当部門の専用webサイトをご覧ください。

受診について

  • 当院では患者さんの待ち時間を短縮するため、予約制を導入しています。
  • ご予約方法は一般の患者さんと医療関係の方で異なります